肝臓がフォアグラ状態になる脂肪肝
日本でアルコール性脂肪肝から、アルコール性肝障害になる人は200~300万人。脂肪肝は自覚症状がほとんどありませんが、進行すると動脈硬化を引き起こす病気です。その特徴や症状、原因、治療法について、まとめています。
脂肪肝は肝臓の30%以上が脂肪の状態
肝臓の回りに脂肪がついている状態を、脂肪肝と思われる人も多いようですが、実際には少し違います。一つひとつの肝細胞の中に脂肪が蓄積していて、それが肝臓の30%以上を占めている状態が脂肪肝です。健康な状態のときは、エネルギー源として肝細胞にストックした脂肪を使うので余分な脂肪はありません。何らかの事情で過剰になると、燃焼されずに細胞の中に残ってしまいます。自覚症状はありませんが、肝機能が低下しているので早期発見が重要です。
アルコールの飲みすぎが原因でおきる脂肪肝です。肝臓にはアルコールを分解する働きがありますが、過剰に摂取して処理能力を超えると、肝細胞に脂肪がたまって脂肪肝に。それが進行すると、肝臓に炎症がおきたり、繊維化すると、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)を引き起こします。1週間以上お酒を大量に飲み続けている人は要注意。
アルコール以外の原因でおきる脂肪肝です。その80~90%は肥満が原因。インスリンの分泌が低下して糖の代謝が追いつかなくなり、肝臓に中性脂肪がたまって脂肪肝になります。肥満・糖尿病・脂質異常等を合併しているケースが多く、心臓病リスクがあります。進行すると非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)になり、肝硬変や肝臓がんの危険も。
急性妊娠脂肪肝は、急激に脂肪が肝臓に沈着していき、急激な肝障害がおきる病気です。妊娠35~40週頃の妊娠後期になりやすく、発症すると急激に進行して母子ともに危険な状態に陥る可能性があります。急性腎不全や腸管出血、脳炎、膵炎、妊娠高血圧症等の、深刻な合併症を引き起こす可能性があるため、早期発見が重要です。
筋肉痛や自律神経の乱れは脂肪肝の疑いあり
肝臓は再生能力が高く、痛みを感じる神経がありません。脂肪肝になっても自覚症状がほとんどありませんが、次のような症状が続くときは、脂肪肝の疑いがあります。脂肪肝になると血液循環が悪くなり、筋肉に疲労物質が溜まり、筋肉痛や疲労などを感じるようになります。それによって、筋肉の動きが悪くなると、体や筋肉が硬くなって肩こりを感じることも。また血流障害により集中力の低下やのぼせ、イライラ、自律神経の乱れなどがあります。
先ほども説明した通り、脂肪肝には罹患したと客観的にわかる自覚症状はありません。そのため、脂肪肝だと特定するには健康診断時の各種検査で診断されます。
人間ドックを受診する人(35歳以上)の20~30%が脂肪肝だとも言われています。(日本消化器病学会 一般のみなさまへ 東北支部「検診で「脂肪肝」−安全?危険?」)それぞれの検査でどうなれば脂肪肝だと見分けられるのかを、検査の流れとともに見ていきましょう。
血液検査では、トランスアミナーゼ値(ASTと ALT)が少し増加すると、脂肪肝の疑いがあります。アルコール性脂肪感の場合は、血液検査中の3つの値がポイントです。AST/ALT比が1.0以上で、AST値の方がALTよりも高くなることが特徴です。さらに、γGTP(ガンマティーピー)値が異常値なら、脂肪肝の可能性があるので、各種画像検査で肝臓を確認します。非アルコール性脂肪肝の場合は、AST/ALT比が1.0以下で、ALT値の方がASTよりも高くなり、アルコール性脂肪肝との区別がつく点が特徴です。脂肪肝関連の値では、他にも中性脂肪値やChE(コリンエステラーゼ)値もセットで高くなっています。(日本消化器病学会 一般のみなさまへ 東北支部「検診で「脂肪肝」−安全?危険?」)また、血液検査では、HBs 抗原・HCV 抗体・各種自己抗体なども同時に確認します。これらの値を確認することにより、ウイルス性の肝疾患や自己免疫性の肝疾患など、脂肪肝以外の肝疾患の可能性をスクリーニング可能です。(日本消化器病学会「NAFLD/NASH 診察ガイドライン 2014」[pdf])健康診断で血液検査の結果が手元にある場合は、これらの値を確認してみてください。
人間ドックでは超音波検査も通常の検査項目に入っていますので、ここで画像的な診断を加えていきます。超音波検査で確認することは、肝臓が腫れあがって大きくなっていないか、肝臓内の脈管がはっきりと映し出せているかどうか、肝臓と腎臓を比べて同じ明るさで見えているかどうかなどです。特に、脂肪肝になっていると超音波検査で肝臓がくっきりはっきり映し出されると同時に深部エコーでは減衰(げんすい)が見られます。これらの所見が認められれば、脂肪肝の疑いは高くなります。 (日本消化器病学会 一般のみなさまへ 九州支部「脂肪肝、脂肪性肝炎とはどんな病気?」)
CT検査では、肝臓と脾臓(ひぞう)を比べて肝臓の方が黒く映ると脂肪肝の可能性があります。CT検査では、肝臓そのもの以外にも、皮下脂肪や内臓脂肪の付き具合も分かり、脂肪肝かどうかを診断する有用な情報を得られます。(日本消化器病学会 一般のみなさまへ 東北支部「検診で「脂肪肝」−安全?危険?」)
超音波検査とCT検査で代替の所見は得られるため、MRI検査はあまり一般的ではありませんが、条件の違う2つの画像を合成加工することにより、肝臓に脂肪が沈着していることをはっきりとらえることができます。(日本消化器病学会 一般のみなさまへ 東北支部「検診で「脂肪肝」−安全?危険?」)
血液検査と画像診断によってある程度脂肪肝かどうかは判定可能です。しかし、脂肪性肝炎との判別についてはこれらの画像診断だけでは難しく、肝臓の組織を一部採取して検査をする生検(せいけん)が必要になります。肝生検によって、肝臓の繊維化など病気が進行していないかの確認も可能です。肝臓の一部を採取するため、患者にはかなりの痛みが伴うため通常は麻酔を用いて採取します。針生検(経皮的針生検と言います)の場合は局所麻酔、腹腔鏡下でかなり多めの組織を採取する腹腔鏡下肝生検の場合は全身麻酔になる場合もあります。(慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト 「肝生検」)
肪肝が進行していくと、最終的には肝臓癌になってしまうリスクがあります。このリスクは、アルコール性脂肪肝であっても非アルコール性脂肪肝であっても同じです。具体的に病気がどのように進行していくのかを、アルコール性と非アルコール性の脂肪肝で分けて説明します。
アルコール性脂肪肝は、お酒を習慣的にかなり多く飲むことで、約90~100%よという非常に高確率でアルコール性の脂肪肝となります。健康な人が肝臓癌にまでなっていくには、以下のような経過を辿りますので確認しておきましょう。
健康な人がアルコールを常習的に摂取していて肝臓癌にまでなる確率そのものは低そうに見えますが、順を辿って悪化していくのに特徴的な症状がなく分かりにくい点が脂肪肝の厄介な点です。
非アルコール性脂肪肝の原因は、カロリーオーバーの食事が直接の原因と言われています。カロリー過剰な食生活により肥満や生活習慣病になっても非アルコール性脂肪肝の原因となります。カロリーの過剰摂取をしている人が肝臓癌にまでなる経過は以下の通りです。
(厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコール性肝炎と非アルコール脂肪性肝炎」)
このように、途中で肝臓の病状は悪化します。途中で出てきた病名についても簡単に紹介しておきましょう。
肝臓の組織が繊維化する病気です。脂肪肝以外にも、肝炎ウイルスの感染や薬の影響によるもの、肝臓内に胆汁が溜まっている状態(肝内胆汁うっ滞と言います)金属代謝異常や肝臓がうっ血している状態など、さまざまな原因があります。肝繊維症になってしまっても、原因を除去することによって症状が改善する場合もありますが、肝繊維症そのものの治療方法についてはまだ研究が始まったばかりで、これという治療法は確立されていません。現在のところは、脂肪肝から肝繊維症にならないように、生活習慣の改善などで予防するよう意識することが大切です。 (第 111 回日本内科学会講演会 稲垣 豊 住吉 秀明「3.臓器の線維化とその治療1)肝臓の線維化とその治療」[pdf])
非アルコール性脂肪肝が悪化すると脂肪性肝炎へと症状が進むことは先ほども触れました。脂肪性肝炎は、その名の通り肝臓が炎症を起こしている状態です。非アルコール性脂肪肝を放置していると肝細胞が風船のように腫れて弱ってしまいます。この症状は「細胞の風船化」です。大きく膨らんだ細胞は、やがて膨張に耐え切れず壊れ、肝臓で炎症が起こり脂肪性肝炎となります。脂肪性肝炎は、非アルコール性脂肪肝とまとめて「非アルコール性脂肪性肝疾患」と呼ばれることもあります。 (国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 肝炎情報センター「非アルコール性脂肪性肝疾患」)
脂肪肝とコーヒーの関係性については、まだはっきりとしたエビデンスが確立しているわけではありませんが、疫学研究では、生活習慣病についてコーヒーが良い影響を与えているという報告も複数挙がっているそうです。コーヒーには肝臓を保護する作用があることが認められていますが、その作用機序までは解明されていません。ただ、イタリアやギリシャでの研究では、コーヒーを飲み続けている人はそうでない人に比べて肝臓がんの発生リスクを大幅に減らすという研究結果が出ています。1日5杯を超えると、カフェインの影響で頭痛など好ましくない影響も出ますが、5杯までならコーヒーは健康に良い影響を与えてくれる可能性が期待できます。(一般社団法人 北海道薬剤師協会「コーヒーと生活習慣病」(2007.11.1)[pdf])
日本では、アルコール性脂肪肝の患者が推定200~300万人、非アルコール性の脂肪肝・脂肪性肝炎の患者は同じく推定1,200~3,600万人いると見られています。特に非アルコール性の脂肪肝・脂肪性肝炎は成人のおよそ10~30%を占める点でかなり一般的な病気と言えるでしょう。 (日本消化器病学会 一般のみなさまへ 九州支部「脂肪肝、脂肪性肝炎とはどんな病気?」)
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の多くは肥満が原因。低カロリー・低脂肪の食事に切り替えて、肥満を予防することが大切です。ビタミン・ミネラルの不足は、肝機能の低下につながるので、しっかり摂りましょう。また良質なタンパク質や野菜も多めにとり、炭水化物の摂りすぎも注意しながら、1日3食のバランスのいい食事を心がけましょう。
アルコール性脂肪性肝炎(ASH)になる原因は、アルコールの過剰摂取。アルコールの摂取量を控えることが、一番の予防・改善策です。ビール大5缶、日本酒5合、ワイン1ℓ、ウイスキー300ml、焼酎500mlに相当する量を、1週間以上飲み続けると、90%以上の割合で脂肪肝になります。
有酸素運動をすると基礎代謝が上がって、脂肪の燃焼効果が高まります。ジョギングや水泳、ティラピスなど、色々な方法がありますが、中でも早歩きが最適です。通勤途中や散歩など、簡単に取り組めます。
効果を高めるポイントは次の通り。
・内臓脂肪の燃焼は、運動開始後20分から始まるので、20分以上続け、1日1時間歩くとより多くの脂肪が燃焼します。
・息があがるくらいの速度で歩き、腕を後ろに大きく振ると、肩甲骨が動いて脂肪が燃えやすくなります。
・ウォーキング中、あるいはウォーキングの前・後に、水分をこまめに取ります。
以上のポイントを心がけると、脂肪が燃焼しやすくなります。また代謝を高めるサプリメント「MUSASHI」を一緒に摂取すると、より効果的です。
参考- 本当はコワイ脂肪肝 | カラダの豆事典 | 沢井製薬 サワイ健康推進課