病気を治すはずの薬の毒性で肝機能が低下
薬を過剰に摂取すると、肝機能が低下してしまう薬物性肝機能障害を引き起こす可能性があります。薬物性肝機能障害が起きるメカニズムや症状、改善策について、みていきましょう。
薬は病気や症状を改善するために使うものですが、種類や配合成分によっては肝機能に障害をもたらすことがあります。これが「薬物性肝機能障害」です。肝機能が低下していると薬の代謝が遅くなります。薬物が体内に蓄積され血中濃度が上がると、副作用等の障害が現れ、重篤な症状を引き起こすことも。また、もともと肝臓が弱っていて、さらに悪化するケースもあります。
薬を規定量以上、大量に服用すると中毒性肝障害が現れます。例えば、解熱鎮痛効果のある「アセトアミノフェン」という成分が含まれている風邪薬。これを一度に20~30倍以上飲むと、肝機能障害を引き起こします。
人によっては規定量以下の薬を飲んでも、肝機能障害のひとつである「かゆみ」や「湿疹」等が現れることがあります。じんましんや喘息などを引き起こしがちなアレルギー体質の人にみられることが多く、服用後、数時間で症状が現れる人もいるようです。
同じ薬でも人によって、肝機能障害が出る場合と、出ない場合とがあります。これは、代謝や分解能力に個人差があるため。薬の種類によっては、最初は何も問題なくても、半年以上経過して症状が現れる場合もあります。
薬の中には、肝臓で代謝する段階で毒性が生じるものがあり、その際に「活性中間体」という物質が生成されます。この物質によって解毒に必要な酵素の働きが阻害されると、肝細胞が壊死。毒性を持つ物質が体内に蓄積されて肝機能障害が起こります。解熱鎮痛剤の「アセトアミノフェン」やホルモン薬などは、肝機能障害を起こしやすいことがわかっているので、これらが含まれている薬を避けることで、回避することが可能です。
薬やその代謝物が体内に入ってアレルギー源になると、免疫反応が働くようになり、それを排除しようとして肝機能障害がおきます。薬物性肝機能障害の大半を占めているといわれ、一種のアレルギー症状といえるでしょう。主な薬には、解熱消炎鎮痛薬・抗生物質・ホルモン薬等があり、服用後24時間~48時間ぐらいで、食欲不振・倦怠感・吐き気・かゆみ・湿疹などの症状が現れることが多いようです。人によって反応する薬は違います。
服用中の薬が原因の場合は、服用を中止すれば、肝機能障害を改善できます。ただし、独断で中止すると治療中の病気に影響が及びます。肝機能障害が起きていることを主治医に相談し、適切な判断を仰いでください。
病院では、過去の病歴や他の肝臓病の有無、1カ月間に服用した薬の名前や量、服用期間等を調べます。中毒性肝機能障害の場合は、薬の特定が比較的容易です。アレルギー性肝機能障害の場合は、処方された薬すべてに可能性があるので、特定するまでに時間がかかる場合も。さらに血液検査・アレルギー検査を行いますが、原因薬を特定できないこともあるようです。
病院で処方される薬だけでなく、健康食品やサプリメントなどで起こることもある薬物性肝機能障害。具体的にはどのように診断されるのでしょうか?
薬物性肝機能障害は「薬物投与と肝機能障害が出る/消えるまでの時間」そして、「薬物以外に肝機能障害をもたらす要因がないかどうか」の2つのポイントで診断することとなります。
病院で処方されている薬以外にも健康食品などで肝機能障害が出ることもあるため、肝機能障害が出ている方本人がその原因に心当たりがないケースもあります。もし日頃から健康食品やサプリメントなどを摂っている方は、診断時にその旨も医師に伝えるようにしましょう。
薬物性肝機能障害は、様々な要因をスコアリングし、総スコアで薬物性肝機能障害の可能性を判断します。具体的には、次のような項目でスコアリングが行われることとなります。
肝機能障害を引き起こしていると疑われる薬の投与中に肝障害が出た場合には、投与からの日数を。投与中止後に発症した場合には投与中止後の日数でスコアリングします。
疑わしい薬の投与を中止した後に、ALT/ALP値の値をもとに、経過を判断、スコアリングします。
飲酒の有無や、妊娠の有無などのリスク要因がないかを確認します。
急性ウイルス性肝炎やアルコール性肝障害、脂肪肝、自己免疫性肝炎など、薬物以外に肝機能障害を引き起こす要因がないかをチェックします。海外渡航歴や飲酒歴、体重の変化、尿や便の状態などから、薬物以外の要因がないかどうか、一つ一つチェックしていきます。
このほかにも、過去に肝機能要害を生じたことがあるか、好酸球の増加があるか、偶然の再投与が行われたときの反応などをスコアリングします。
薬物性肝機能障害を診断する際には、疑われる薬を服用していたかどうかも重要なチェック項目です。1997年から2006年の間に薬物性肝機能障害の原因となっていたことが特定された薬のうち、全体の5パーセント以上を占めていた薬には、次のようなものがあります。
中でも最も多かったのが抗生物質ですが、特定された薬のうち10パーセントが健康食品、7.1パーセントが漢方薬、5.5パーセントが一般の市販薬であったことは特に注意したいところです。きちんと用法・用量を守らないと、副作用として肝機能障害を引き起こす薬や健康食品もあることを頭に入れて、服用の際には医師の指示や説明書きをきちんと守るようにしましょう。
参考
少量のアセトアミノフェン服用による急性肝障害の2例
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo1960/26/4/26_4_493/_pdf/-char/ja
『薬物性肝障害の診断と治療』日本内科学会雑誌,104(5)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/5/104_991/_pdf