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Rational symptom

かゆみ

発疹を伴わないかゆみに潜む重篤な疾患

かゆみの原因は、虫刺されやアレルギー性皮膚炎などさまざま。発疹や腫れなど見た目の変化がないうえに市販のかゆみ止めが効かない場合、肝臓病がかゆみの原因かもしれません。重篤な症状を招く前に、かゆみが現れるメカニズムや考えられる病気についてみていきましょう。

かゆみの症状

ドライスキン(乾燥)や虫刺され、皮膚炎などさまざまな原因で引き起こされるかゆみ。

皮膚のカサつきや腫れ、湿疹ができるなど見た目に異常が出る皮膚トラブルも多いですが、中には見た目に何の異常も現れないにも関わらず全身に強いかゆみが出ることもあります。その場合、肝炎や肝硬変などの肝臓病が原因かもしれません。

肝臓病によるかゆみの特徴は、ステロイド剤が効きにくいこと。特に症状が強く現れるのが入浴後の体が温まった時や就寝時で、激しいかゆみを感じることで寝付けない人が多く見られます。睡眠障害へと繋がる可能性もあるため、「たかがかゆみ」と侮れない症状。原因がわからないかゆみでお悩みなら、より深刻な症状を引き起こす前に医療機関へ相談してください。

かゆみの原因

肝臓病のかゆみは、モルヒネと似た物質である「オピオイドペプチド」のバランスが崩れることで現れます。

オピオペプチドは、かゆみを誘発する「β-エンドルフィン」とかゆみを抑える「ダイノルフィン」の2種類。「体内性モルヒネ」「脳内麻薬」とも呼ばれているβ-エンドルフィンは、鎮痛効果に優れた物質ですが、体内で増えすぎるとかゆみを引き起こす原因になります。正常なバランスが保たれていればダイノルフィンがβ-エンドルフィンの働きを抑えてくれますが、肝臓病患者の体内ではβ-エンドルフィンが増えてしまうため、かゆみを誘発するβ-エンドルフィンが勝ってしまうのです。

こんなかゆみには要注意

かゆみは虫刺されや皮膚の乾燥などさまざまな原因で引き起こされる皮膚症状です。そのため、かゆみがあるからといって、肝機能に問題があるとはなかなか気づきにくいものかもしれません。

肝臓に異変あることが心配されるかゆみには「かゆくて夜も眠れない」「かいてもかいてもかゆみがおさまらない」「ステロイド剤が効きにくい」などの特徴があります。かゆみの部位は手足や胴体に出ることが多く、かゆみが出た後に黄疸が出るケースもあります。

肝臓が原因のかゆみは、脳が感じるかゆみ(中枢性のかゆみ)とも言われています。そのため、ステロイドや皮膚炎でかゆみや炎症を抑えるために用いられるヒスタミンなどは効きにくいとも言われています。

かゆみの程度は visual analogue scale で日中は 19.2±3.4,夜間は 25.9±4.1 であり,日中より夜間のかゆみのほうが強い傾向にあったが有意差はなかった。また,かゆみがあると回答した患者のうち外用薬や抗ヒスタミン薬の内服などのかゆみに対する治療を行っているものは約半数(17/36 名)であり,治療により約 8 割(14/17 名)の患者がかゆみは軽減すると回答していたが,かゆみの症状は持続していた。

出典:『慢性肝疾患のかゆみの現状 ―― 慢性肝疾患患者 71 名に対するアンケート調査から ――』西日本皮膚科,78(6),2016
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishinihonhifu/78/6/78_655/_article/-char/ja/

かゆみから考えられる病気

肝疾患とかゆみの関係を調査した研究では、慢性肝疾患の患者さんのうち約半数にかゆみが生じていたという統計もあります。[1]
また、別の研究では、慢性肝疾患の約3割にかゆみがあるという調査結果も報告されています[2]。

慢性肝疾患の患者のうち,約 5 割(36/71 名)でかゆみがあった。かゆみが生じる傾向は,PBC 患者と B 型肝炎や C 型肝炎に肝硬変を続発した患者で高く,とくに C 型肝炎に肝硬変を続発した患者では肝硬変の無い患者と比較して有意にかゆみが生じる割合が高かった。

出典
[1]参考:『慢性肝疾患のかゆみの現状 ―― 慢性肝疾患患者 71 名に対するアンケート調査から ――』西日本皮膚科,78(6),2016
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishinihonhifu/78/6/78_655/_article/-char/ja/

[2]参考:『慢性肝疾患における掻痒症の実態とナルフラフィン塩酸塩の治療効果に関する検討』肝臓,58(9),2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/58/9/58_486/_pdf/-char/ja

「かゆくて夜眠れない」「かきむしっても、辛いかゆみが治まらない」という場合、肺炎や肝硬変などの肝臓病が原因である可能性も。2010年に肝炎患者2,138例を対象に調査した自覚症状についてのアンケートでは、肺炎患者の4~5人に1人の数にあたる22.4%が「皮膚がかゆい」と答えています。

なかでも強いかゆみを引き起こす肝臓病が「原発性胆汁性肝硬変(PBC)」です。胆汁を排泄する小葉間胆管(しょうようたんかん)と呼ばれる肝臓内の小さな管に異常が生じる疾患。行き場を失った胆汁が体内に溜まり「胆汁うっ滞」という状態になると、皮膚のかゆみや黄疸が現れます。50歳異常の女性に多く見られる症状で、骨粗しょう症や腎臓の異常が起こることも。肝硬変の症状や合併症を招く可能性もある病気です。

具体的にどんな慢性間疾患でかゆみが生じることがあるのかを見ていきましょう。

原発性胆汁性胆管炎(原発性胆汁肝硬変 PBC)

指定難病にも認定されている原発性胆汁性胆管炎(原発性胆汁肝硬変 PBC)は、肝臓でつくられる胆汁という消化液を通す管(胆管)が壊れてしまう病気です。[1]原発性胆汁性胆管炎(原発性胆汁肝硬変 PBC)ではかゆみを併発するケースが肝臓の病気の中でも特に多く、発現率は70%程度とも報告されています。

原発性胆汁性胆管炎は、20歳以降に発症する病気です。男性よりも女性の方が発症数は多く、50〜60代で最も多く発症します。発症の原因は、自己免疫反応の異常と言われており、全国に患者数は約5〜6万人程度いると推計されています。[1]

全身に掻痒を生じる汎発性皮膚掻痒症は,肝障害,腎不全などの基礎疾患に伴うことが多い1).中でも原発性胆汁性胆管炎(以下 PBC)では高率に合併し,掻痒発現率が 70%前後と報告されている.

出典:肝臓 58 巻 9 号 486―493(2017)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/58/9/58_486/_pdf/-char/ja

[1] 参考:難病情報センターHP『原発性胆汁性胆管炎(指定難病93)』http://www.nanbyou.or.jp/entry/93

B型慢性肝炎、C型慢性肝炎

また、かゆみはB型慢性肝炎の約8%の方に見られるという報告もあります。B型慢性肝炎は、出産時や乳幼児期にB型肝炎ウイルスに感染し、10代〜30代で一過性の強い肝炎を引き起こすことが特徴です。一度一過性の肝炎を引き起こした後におとなしいウイルスに変化すれば、障害強い肝炎を発症しないと言われています。ただし。10%〜20%の型が、慢性肝炎へと移行。肝硬変や肝がんを引き起こすリスク要因となることがあります。

参考:国立国際医療研究センター 肝炎情報センターHP『B型肝炎』2018年2月7日確認
http://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/010/b_gata.html

また、C型慢性肝炎でも2.5%〜25%の割合でかゆみが発言するという報告もあります。C型慢性肝炎は血液を介して感染することが多く、感染しても自覚症状がないまま肝硬変や肝がんなどに進行するケースも少なくありません。肝硬変に進展した場合には、むくみや手のひらが赤くなる、腹水がたまるなどの症状が見られることがあります。

肝臓の病気でかゆみが生じる理由

肝臓の病気が原因で引き起こされるかゆみ。そのかゆみのメカニズムは、まだまだ十分に解明されていません。肝臓は、体内のホルモンや脂質、ビルビリン酸、胆汁酸などさまざまな物質を合成・代謝する臓器です。そのため、これらの代謝異常が原因でかゆみが生じているのではないかとも考えられています。

また、臨床例から検討すると、黄疸が出る前にかゆみが症状として出ることが多いため、胆汁酸がメカニズムに何らかの関わりがあるのではないか、と考えられています。

しかし慢性肝疾患患者において掻痒症は高率に認める合併症でありながら発症機序はいまだ十分に解明されていない.掻痒症の要因の一つとして胆汁酸の関与が示唆され,臨床的に黄疸を認める前に,18~55% の患者に掻痒症が発現する10).しかし,掻痒の強さは胆汁うっ滞の程度や血清中の胆汁酸濃度と必ずしも相関しない11).掻痒症は患者の QOL に大きく関与し,その管理は肝疾患診療において重要な意義をもつと考えられるが,これまでに肝疾患と掻痒症の関連について詳細な検討はなされていない.

出典:肝臓,58(9),2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/58/9/58_486/_pdf/-char/ja

その他同じ症状が出る病気

発疹が出るか出ないかによって分けられる、かゆみが関係する病気。肝臓病と同様に「発疹の出ない全身性のかゆみ」が出る場合は、皮膚掻痒症や糖尿病、慢性腎不全が考えられます。

皮膚掻痒症とは、皮膚の乾燥や老化が原因で起こるかゆみです。入浴で体が温まった時や眠る時に現れやすく、皮膚腎不全や肝疾患、内臓疾患が原因となる可能性も。

感染症にかかりやすいとされる糖尿病では、皮膚感染症のリスクが高まります。なかでも多いのが、全体重が足にかかるダメージによって起こる水虫。我慢できないほどのかゆみが生じる水虫ですが、悪化すると足が壊疽(えそ)することもあります。

数カ月から数年のスパンをかけて少しずつ進行していく慢性腎不全も、かゆみを伴う病気です。あらゆる腎臓病が原因となって引き起こされる慢性腎不全のかゆみは、血液中に含まれるかゆみの原因物質「ヒスタミン」が上昇することにより現れます。

どの病気を原因とするかゆみにおいても、充分な保湿と肌を清潔にしておくことが大切です。放っておくと、壊疽(えそ)や合併症などより深刻な症状を招く可能性も。一度医師に状態を診てもらい、適切な治療や検査を受けましょう。

かゆみを抑える方法

慢性肝障害に伴うかゆみには、μ-オピオイド拮抗薬という薬が治療に用いられます。ヒスタミンのように炎症を抑えるのではなく、μ-オピオイド拮抗薬はかゆみ信号を感じる神経作用を抑制する薬です。これは、肝臓の病気によるかゆみは、皮膚に原因があるのではなく注水神経系に存在するオピオイドペプチド系が活性し、かゆみを感じると考えられているからです。

胆汁うっ滞性肝障害患者は,μ-オピオ イド受容体拮抗薬の投与によりオピオイド退薬症状様 の症状を示す(63, 65),掻爬行動が日中は顕著だが夜 間には減少する(65),痒みのある胆汁うっ滞の患者の 血清をサルの延髄後角に注射して引き起こされる顔面 の掻き動作がオピオイド拮抗薬で抑制される(66)な どの知見から,中枢神経系のオピオイドペプチド系の 活性亢進が痒みの一因であると考えられている.オピ オイド拮抗薬は,胆汁うっ滞による痒みには退薬症状 様の症状の発現をコントロールできれば有用な鎮痒薬 となりうると思われるが,皮膚に原因がある痒みの場 合は,痒みの感覚は抑制できても夜間の掻爬は十分に は抑制できない可能性がある.

出典:『痒みの発生機序と鎮痒薬の薬理』日薬理誌,139,2012
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/139/4/139_4_160/_pdf

症状が見られたときは?

夜も眠れず、傷になるまでかきむしってしまう辛いかゆみ。ありふれた症状ながら、長期間続くとQOLの低下や睡眠障害にも繋がります。また一言に「かゆみ」といっても、その原因は感染症や合併症などさまざま。肝機能が低下したことが原因で起こるかゆみの中には、市販の薬が効きにくいかゆみもあります。放っておくと透析が必要になる疾患や足の壊死に繋がるような症状もあるので、自己判断で解決しようとせず必ず医師に相談してください。

一般的に皮膚炎やアレルギー性のかゆみの症状で診察を受けるのは皮膚科ですが、肝臓病が原因だと考えられるかゆみであれば消化器内科で検査や診察を受けるのがいいでしょう。

肝臓病や糖尿病は生活習慣とも密接に関わり合う病気。日ごろから規則正しい生活を心がけながら、定期健診で自分の身体をチェックしておきましょう。