肝臓の仕組み
を解説

胆汁分泌

肝臓の仕組みと胆汁分泌の働き

肝臓の働きの一つに胆汁の分泌があります。胆汁が分泌されることで身体の健康が保たれていますが、どのような働きがあるのでしょうか。その仕組みや働きについてまとめています。

胆汁分泌とはどのような働きか

肝臓では、1日に1ℓほどの胆汁が作られます。分泌されると肝細胞の間に張り巡らされている毛細胆管を通って胆のうに送られて、そこで貯蔵されます。食物が胃を通って十二指腸に届くと、胆のうの収縮により、貯蔵していた胆汁が十二指腸に送られます。そして、消化された老廃物と一緒に便となって排出されます。

胆汁の成分

胆汁は、肝臓から1日に1ℓほど分泌される弱アルカリ性の黄色い分泌液で、胆嚢で濃縮され茶色に変わります。胆汁の成分には、胆汁酸やコレステロール、ビリルビンなどがあり、脂肪の消化吸収に重要な役割を果たしています。

胆汁の役割

胆汁は、脂肪やタンパク質の分解と吸収に欠かせないもの。それ以外にも尿と同じように体の中の不要なものを排出する役割を果たしています

1

消化・吸収

脂肪の消化・吸収を促す

胆汁の主な働きは、脂肪の消化・吸収を促すことです。胆汁には胆汁酸が含まれていて、これが脂肪の消化・吸収に重要な役割を果たしています。肝臓から胆汁が分泌されるとその90%が水分ですが、胆嚢に送られると8倍ほどに濃縮されます。それ自体には消化酵素がありませんが、十二指腸に送られて膵液と一緒になって、脂肪の消化・吸収をします。膵液は膵臓から分泌される分泌液で、複数の酵素を含んでいます。そのうちの一つ、リパーゼが脂肪を分解する酵素です。胆汁酸と一緒になることで脂肪を分解して腸から吸収しやすくします。また脂肪を分解するときにできる脂肪酸は、そのままでは吸収しにくいので、胆汁酸にはそれを吸収しやすくする働きもあります。

2

不要物の排泄

老廃物を便と胃一緒に排せつする

胆汁のもう一つの働きに、体内の老廃物や不要物を、体外に排せつさせる作用があります。胆汁にはビリルビンと呼ばれる物質が含まれています。これはヘモグロビンを分解したときにできる茶色い色素で、黄疸の原因となる物質です。赤血球の中にはヘモグロビンという物質が含まれています。これが古くなると、肝臓で分解されて血中濃度が高くなります。この時、できる茶色い色素がビリルビンです。肝臓でできたビリルビンは、胆管から十二指腸に送られて、便とともに排せつされます。肝機能が低下すると、ビリルビンを十二指腸に送れなくなって、便の色が白くなり、全身に黄疸が現れます。体内に老廃物が溜まった状態になるので、かゆみなどの症状が現れます。

胆汁分泌が低下した際に見られる症状

脂肪やタンパク質を分解・吸収し、不要な老廃物の排出を助けてくれる胆汁は、正常に分泌されないと、様々な悪影響を体に及ぼします。例えば、栄養素がきちんと体に吸収されなくなったり、老廃物が体外にきちんと排泄されなくなったりします。胆汁はコレステロールを排出する役割も担っていますから、必要以上にコレステロールが体内に溜まってしまうこともあり得るのです。胆汁の分泌量が低下したサインとしては主に次のようなものがあります。

便が白っぽくなる

ヘモグロビンが体内で代謝されるとビルビリンという成分に変わります。ビリルビンは肝臓で肝細胞に取り込まれ、水に溶けやすい抱合型ビリルビンに変化。間から胆道に排泄され、小腸に流れ、小腸の腸内細菌によりステルコビリノーゲンという成分になり、最終的に便と一緒にステルコビリンとなって排出されます。ステルコビリンは、便を茶色くする元となる成分です。もしもヘモグロビンが代謝されてできたビルビリンが肝臓から腸にきちんと流れなければ、便となって排出されなくなってしまいます。この場合、便は茶色ではなく白っぽくなります。

参照:ナースプレスHP「第16回【ヘモグロビン代謝】どうやってヘモグロビンがビリルビンになるのか」
https://nursepress.jp/218130

皮膚や白目が黄色っぽく、尿が茶色っぽくなる

胆汁の分泌異常でビルビリン色素がうまく排出されないと、血液内に逆流し、皮膚や白目部分を黄色くすることがあります。これも、胆汁がうまく分泌していないサインとなります。また、胆汁が肝臓内に鬱滞し血管内に逆流すると、血中ビリルビン濃度が高くなり、尿中に排出されることがあります。この結果、尿の色が濃く、茶色っぽくなります。

参照:大阪府済生会 富田林病院HP「シリーズ 病気|No,80 胆管癌」
http://www.tonbyo.org/contents/series/2009_02.html

食欲不振・むかつき

胆汁の鬱滞が長引くと、顔が黄色っぽくなるだけでなく、腹痛・嘔吐・食欲不振・ムカつきといった症状が出る可能性があります。また、胆汁は弱アルカリなので、腸内に流れてきた胃酸を中和させ、弱アルカリに保ってくれているのですが、胆汁が減ってしまえば当然弱アルカリに保てなくなります。腸内のpHの乱れは、大腸ガンや便秘、下痢などの原因となってしまいます。

皮膚のかゆみ

胆汁が鬱滞し、血液内に逆流した際に、胆汁酸がビリルビンと一緒に流れ出すことがあります。胆汁酸が原因で皮膚のかゆみを感じることもあります。

参照:MSDマニュアル家庭版「04. 肝臓と胆嚢の病気 肝疾患の症状と徴候|胆汁うっ滞」
http://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/04-肝臓と胆嚢の病気/肝疾患の症状と徴候/胆汁うっ滞

胆汁うっ滞について

肝臓や胆管、膵臓に何らかの病気が生じると、肝臓で分泌された消化液・胆汁の流れが妨げられ、胆汁うっ滞となります。

胆汁うっ滞になると、血液中にある赤血球の老廃物から生じる色素・ビリルビンが血流に流れ込みます。そのため、血液検査では総ビリルビン値が高い値(1.3mL/dL)を示した場合、肝臓や胆管に何らかの病気があることがわかるのです。

胆汁うっ滞の原因

胆汁うっ滞の原因は一概に言えず、様々な原因が考えられます。

例えば、肝臓内に何らかの原因がある場合だけでも、急性肝炎やアルコール性肝疾患、胆管の炎症なども併発している原発性胆汁性肝硬変、B型肝炎などから引き起こされる肝硬変、肝臓がんなどが疑われます。

また、肝臓以外にも胆管内に結石がある場合や、胆管がん・膵臓癌、膵炎などが胆汁うっ滞を引き起こしている可能性があります。

原因を特定するためには、血液検査による総ビリルビン値に加えて、臨床検査や画像検査などが必要です。

胆汁うっ滞の引き起こす症状

胆汁うっ滞では、胆汁分泌が低下した際に見られる症状と同じような症状がみられます。

例えば、黄疸や尿の色が濃くなったり、白っぽい便になることは見た目からもわかる症状です。

このほかにも、皮膚がかゆくなったり、カルシウムやビタミンDの吸収不良による骨組織の減少、腸からビタミンKが吸収されにくくなることによる出血しやすさなどが考えられます。

胆汁うっ滞で皮膚がかゆくなる原因は「リゾフォスファチジン酸」という成分が関係しています。

胆汁は、肝臓で生成される胆汁酸および胆汁色素を含む黄褐色の液体である。胆汁は、胆道系を通って十二指腸に排泄されるが、この経路のどこかで胆汁の流れが阻害されている状態が胆汁うっ滞である。その原因として、肝炎、薬物性肝障害、原発性胆汁性肝硬変などが知られている。胆汁うっ滞の特徴的な症状は、黄疸、尿の色が濃くなる、便の色が薄くなる、全身の痒みである。また、胆汁の排泄不足は、食物脂肪、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKが吸収できないなどの障害が生じる。

胆汁うっ滞の患者の70%以上が痒みを訴える(非特許文献1)。痒みの原因として、中枢μ-オピオイド受容体の減少(非特許文献2)、Autotaxin の活性化とリゾホスファチジン酸の増加(非特許文献3)などが提唱されているが詳細は不明である。

出典:(PDF)公開特許公報(A)「胆汁うっ滞性障害のモデル動物およびその作製方法」2012 [PDF]

「リゾフォスファチジン酸」がかゆみを引き起こす原因は、今まで明らかになっていませんでした。ところが最近、胆汁うっ滞によるかゆみの原因と考えられてきた「リゾフォスファチジン酸」がかゆみをもたらすメカニズムについての研究も少しずつ解明されています。

LPAがどのような分子に作用し、かゆみを引き起こすのか、その詳細なメカニズムを解明するため、カプサイシンによって生じる痛みの発現に関与するイオンチャネル分子「TRPV1(ティー・アール・ピー・ヴィワン)」と、ワサビの辛み刺激の発現に関与するイオンチャネルである「TRPA1(ティー・アール・ピー・エイワン)」に着目しました。TRPV1とTRPA1は、痛みを伝える感覚神経にのみ発現しているというわけではなく、かゆみなどを伝える感覚神経にも多く存在していることから、LPAがTRPV1やTRPA1を介してかゆみを伝達している可能性が考えられました。

そこで感覚神経にTRPV1を持たない遺伝子改変マウスと、TRPA1を持っていない遺伝子改変マウス、そしてTRPV1とTRPA1の両方を持っていない遺伝子改変マウスを使い、LPAがもたらすかゆみ行動を調べた結果、正常なマウスと比べ、いずれの遺伝子改変マウスでもかゆみを感じる時に行う動作である「ひっかき動作」が少なくなりました。

以上より、 LPAがもたらすかゆみには、TRPV1とTRPA1の両方が関わっていると考えられます。

出典: 生理学研究所 プレスリリース「胆汁うっ滞のかゆみ物質の作用機序の解明」2017年3月7日

MSDマニュアル家庭版「04. 肝臓と胆嚢の病気 肝疾患の症状と徴候|胆汁うっ滞」(2018年2月27日確認)

PTBD(経皮経肝胆道ドレナージ)とは?

胆汁うっ滞の治療法のひとつとしてよく行われているのが、PTBD(経皮経肝胆道ドレナージ)です。

PTBD(経皮経肝胆道ドレナージ)は、胆管が腫瘍や炎症などで閉塞して胆汁うっ滞が起きた際に、肝臓内で胆汁が流れる胆管にチューブを挿入、胆汁を体の外に流し出す治療方法です。

肝臓の病気や膵臓の病気などで胆汁の流れが阻害された場合の治療法には、PTBD(経皮経肝胆道ドレナージ)以外にも点滴などによる薬物治療があります。しかしながら、薬剤による治療では、かゆみを初期であれば改善することもできるのですが、胆管内に細菌が繁殖。胆管が炎症を起こし、重篤な症状になってしまうこともあります。

そのため、胆汁うっ滞した場合の治療法として、胆管炎を抑え、黄疸・かゆみを軽減するなどの目的でPTBD(経皮経肝胆道ドレナージ)が選択されることがあるのです。

現在の状態を改善するためには、欝滞した胆汁を排出(ドレナージ)する必要があります.具体的には超音波ガイド下に拡張した胆管を皮膚と肝臓を介して穿刺し、胆汁を排出します。胆汁が欝滞した人に行う治療法として、全国の多くの施設で一般的に行われ保険でもみとめられている治療法です.

出典: (PDF) 大分大学医学部・医学系研究科「診療行為説明書」[PDF]

PTBD(経皮経肝胆道ドレナージ)の方法

PTBD(経皮経肝胆道ドレナージ)は、局部麻酔もしくは全身麻酔をかけた後、胆管内に針を挿入し、チューブを入れていきます。チューブは一本の場合もあれば、症状などに応じて2本以上挿入する場合もあります。

チューブを入れた後は、チューブを留置してチューブの先につけたバッグに胆汁を貯めていきます。バッグに排出される胆汁は1日あたり400〜1,000ml程度。PTBD(経皮経肝胆道ドレナージ)をした後は、自宅でも生活できますが、胆汁の色に変化がないか(緑色は要注意!)、チューブを固定している皮膚が赤く腫れたり生んだりしていないか、痛みや発熱がないかなどを注意深くチェックしましょう。

場合によっては、チューブ挿入箇所から感染を引き起こしている場合もあります。

PTBD(経皮経肝胆道ドレナージ)を入れたら注意したいこと

PTBD(経皮経肝胆道ドレナージ)を入れた後は、自宅でチューブの固定確認や感染予防などのために、週2〜3回の頻度でガーゼを交換しましょう。また、胆汁バッグも交換が必要です。入浴は、気をつければシャワーを浴びることができます。

(PDF) 「拡張・非拡張胆管に対する PTBD の手技」胆道,28(4),2014[PDF]

MSDマニュアル家庭版「04. 肝臓と胆嚢の病気 肝疾患の症状と徴候|胆汁うっ滞」(2018年2月27日確認)

胆汁酸とは

肝臓で作られる胆汁の主成分は「胆汁酸」と呼ばれる物質です。胆汁酸はコレステロールより生合成される成分なので、小腸での脂質の消化や吸収にも深く関わっています。胆汁酸は、胆汁内に排出された後、腸管を通り、再び腸管の上皮から吸収、間に戻って再び胆汁内に排出されます。つまり、腸と肝の間を循環する成分なのです。腸管で吸収されずに便などと一緒に排出されてしまった胆汁酸を補うために、肝臓では新たに胆汁酸をコレステロールから生合成しています。そのため、体内にある胆汁酸の量は一定量に保たれています。

胆汁酸の作用

では、この胆汁酸。いったい私たちの体の中でどんな役割を果たしているのでしょうか。

胆汁酸は肝でコレステロールより生合成される。胆汁生成に重要な物質であるとともに、ミセル形成能を有することにより胆汁中でのコレステロールの溶存や小腸内での脂質の消化。吸収にも重要な役割を果たしている。

出典:『胆道医が知っておくべき“胆汁酸の基礎と臨床”』滝川,胆道25(2),2011[PDF]
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tando/25/2/25_2_189/_pdf

脂肪分解を助ける

胆汁酸は、1日30g程度生成され、腸肝内で脂肪分解酵素の働きを促進しています。具体的には、脂肪や脂肪酸、コレステロールなどを乳化。膵リパーゼが分解する効果を高めています。

ビタミンDの吸収を助ける

また、胆汁酸はビタミンDの小腸吸収を助けています。ビタミンDはカルシウムの吸収にも深く関係する栄養素ですから、ビタミンDが吸収されないと、当然カルシウムも体内に吸収されなくなり、骨粗鬆症などにつながってしまいます。

コレステロールの代謝・排出

もう一つ、胆汁酸が担う大切な役割が、コレステロールの排出です。肝臓で作られた胆汁酸は、コレステロールが原料となり、腸肝内を循環するのに必要な量を超えて生成された場合には、便と一緒に排出されます。つまり、コレステロールが元の胆汁酸は、過剰になったコレステロールを体外に排出する役割を担っているとも言えるのです。

おならが臭いのは胆汁酸が不足しているサインかも

胆汁酸が不足すると、腸内の悪玉最近が増加し、タンパク質や脂肪を分解する際にアンモニアなどの臭いガスが腸内で発生します。おならが臭いのは、腸で胆汁酸がしっかりと働いていないサインかもしれませんから、要注意。腸内の状態、ひいては胆汁酸がきちんと機能しているかどうかをおならの臭いでチェックしてみるのもいいかもしれません。

胆汁排泄がうまくいかないと…

体の中で大切な役割を果たしている胆汁酸。胆汁の主成分のため、当然胆汁の排泄に異常があれば体内の胆汁酸のバランスも乱れてしまいます。胆汁の分泌量が何らかの原因で低下したり、肝内に胆汁がたまる胆汁鬱滞が起こったりすると、胆汁酸が腸に排泄されなくなり、脂溶性ビタミンや脂肪酸、脂質成分などが不足してしまいます。

胆石に注意

胆石とは、固まった胆汁の成分が、胆嚢や胆管内に溜まった状態です。近年、日本では、胆石を発症する人が増加傾向にあるといわれます。胆石を発症する人は、高齢者や女性、糖尿病患者や肥満の人が多いようです。こうした人は胆汁酸の分泌が少ない傾向にあり、そのため胆石ができやすいと考えられています。胆石を予防するためにも、胆汁酸の分泌を促すタウリンなど、アミノ酸を日頃から摂取することが大切です。