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肝臓の仕組み
を解説

肝臓の再生能力

肝臓の仕組みと驚きの再生能力

肝臓の特徴の一つに再生能力があります。再生能力によって私たちの身体の健康は保たれていますが、どのような働きがあるのでしょうか。その仕組みや働きについてまとめています。

肝臓が持つ再生機能

人間の体には、様々な臓器がありますが、様々な原因でダメージを受けると、炎症を起こしたり、細胞が壊死して機能不全に陥ります。これらの中でも肝臓は再生能力が非常に高い臓器です。炎症でダメージを受けたり、壊死した肝細胞を、素早く修復・回復して、正常な機能を取り戻します。もっともわかりやすい例が、手術後の再生能力です。肝臓の70%まで切り取られても半年前後で元の大きさに戻り、肝機能もほぼ正常に働くようになります。

切除しても元に戻る再生力

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残っている細胞が新しい細胞を作る

よく知られている肝臓の再生能力は、手術後の再生です。胃や腸など他の臓器は切除すると、二度と元の大きさに戻ることはありません。ところが肝臓だけは違っていて、トカゲのしっぽのように再生して、元の状態に戻るのです。その再生力は非常に高く、肝臓の約30~20%ほどが残っていれば、その細胞が新しい細胞を作り出して再生します。切除した大きさにもよりますが、4か月~半年ぐらいでもとの大きさになり、肝機能も正常に働くようになります。

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切除後も肝機能が維持できるかがポイント

肝臓を切除する時は、その後も肝機能を維持できるかどうかが非常に重要です。肝機能が悪化していると、切除後、本来の機能を取り戻すことができません。例えば肝臓がんの場合、がんのステージや発症した場所によっては手術が不可能です。また太い血管のそばにがんがある場合も切除は難しく、取り残しがあると、がんの進行を早めたり、再発の恐れがあります。それらのリスクを回避するために、事前検査で肝機能の状態を確認した上で、切除の可否を判断します。

再生能力の要因である肝細胞

肝臓の再生能力については、未だ解明されていないことが沢山あり、研究が進められている途中です。最近では、肝細胞の持つ特異な性質が再生能力と関わっていると考えられています。通常の細胞は染色体が46個。ところが肝細胞には、通常の2倍の92個や、3倍の138個の染色体を持つ細胞が沢山存在しています。この性質が肝細胞の再生に大きく関わっていて、他の臓器よりも細胞の増殖スピ―ドが早く、高い再生能力があると考えられています。

肝細胞は肝臓の全体の80パーセントを占めています。肝細胞以外に肝臓を構成する要素としては肝類洞内皮細胞や肝星細胞、クッパー細胞があることが分かっています。参考までに、現在分かっている各細胞の役割や特徴を見ていきましょう。

まず、肝星細胞は、類洞内皮細胞と肝細胞の間にある細胞で、コラーゲン線維を産出したりやビタミンAを貯蔵する役割を担っています。

肝星細胞(伊東細胞,脂肪摂取細胞 ,ビタミンA貯蔵細胞,リポサイトとも呼ばれる)は肝実質細胞索と類洞 との間のディッセ腔に存在する.肝星細胞の主な機能は過剰なビタミンAをレチニルエステル(主にレチニルパル ミテート)の形でその細胞質の脂質滴に貯蔵し,必要に応じて貯蔵したビタミンAを放出することである.肝星細胞のこのような働きによってヒト血漿ビタミンA濃度はおよそ2μM に維持されている. 〜中略〜肝星細胞の主な機能はビタミンA の貯蔵であるが ,この細胞は肝線維化の責任細胞としても知られている.過剰なアルコール摂取やウイルス感染などの刺激により肝星細胞は「活性化」と呼ばれるプロセスを経て筋線維芽細胞様に分化し,コラーゲンなどの細胞外マトリックスを過剰に合成・分泌するようになる.

出典:「肝星細胞によるビタミンAの恒常性維持機構」ビタミン,89(10),2015[PDF]
https://www.jstage.jst.go.jp/article/vso/89/10/89_KJ00010079289/_pdf/-char/ja

また、クッパー細胞は肝類洞腔中にある免疫細胞の一種です。

肝星細胞やクッパー細胞は肝細胞の再生に非常に重要な役割を果たしています。例えば肝星細胞は、サイトカインや増殖因子を算出・分泌することで肝細胞の増殖に関係しています。また、細胞外にあるマトリックス物質も肝細胞が増殖・分化する過程に関わりを持っていることが分かっています。

こうしたことから、これまでは肝臓を構成している幹細胞の細胞分裂が肝臓そのものの再生に深く関わっていると考えられていました。

ところが、この常識を大きく覆したのが、2012年に東京大学の研究者らが発表した研究結果です。一体どんな研究家というと、研究グループでは肝臓の再生には肝臓を構成する肝細胞の分裂により細胞数を増やすことが大切なのではなく、幹細胞そのものが大きくなることが重要だったというのです。

研究チームは、肝臓の再生に幹細胞の分裂が必要であると考えられていたものの、その証拠がなかったことに着目。肝臓が再生している間の肝細胞の様子を解析したところ、想像以上に細胞分裂の回数が少なく、幹細胞が肝再生のために肥大していたことが分かったのです。また、切除する肝臓を70パーセントから30パーセントに減らしたところ、肝臓の再生は幹細胞の分裂ではなく、幹細胞の肥大のみによって再生されていたことも分かっています。

今回、東京大学分子細胞生物学研究所の宮岡佑一郎助教(当時)と宮島篤教授らは、この根本的な問題に取り組むため、肝再生における肝細胞の様子を詳細に解析し、肝再生には肝細胞の分裂よりもむしろ肥大がより重要であることを明らかにし、さらに肝細胞は肝再生中に特殊な細胞分裂を行うことも突き止め、これまでの肝再生研究の常識を覆す結果を得た。 〜中略〜 肝臓の70%を切除した後の肝臓の再生においては、分裂による細胞数の増加(約1.6倍)と細胞の肥大(約1.5倍)がほぼ同程度に貢献していることを意味している。 さらに、切除する肝重量を70%から30%にまで減らすと肝細胞は分裂せず、肥大のみによって肝臓が再生することも突き止めた。このことは、肝臓はまず肝細胞の肥大によって再生し、肥大だけでは不十分である場合にのみ分裂してその数を増やすということを示唆している。これらの結果から、これまでに知られていなかった肝再生における肥大の重要性が世界で初めて明らかとなった。

出典:東京大学分子細胞生物学研究所 2012年6月1日報道発表資料「肝臓の再生を担う肝細胞の驚くべき性質を解明」
https://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_240601_02_j.html

肝再生制御因子 Orm1とは?

2017年秋、理化学研究所のライフサイエンス技術基盤研究センター微量シグナル制御技術開発特別ユニットの研究者らが、肝細胞の増殖を肝でつくられるα1酸性糖タンパク質オロソムコイド(以下、Orm1)が促進していることを明らかにしたと発表しました。

かねてより高い再生能力があると言われてきた肝臓ですが、その生成には、肝臓にある複数の細胞が信号を出したり受け取ったりしながら相互作用していくことで再生が促されると考えられています。そのため、今回Orm1が肝細胞の増殖・再生を促すことが分かったのは、今後肝臓の再生の仕組みを知る上でとても重要な発見として注目されています。

研究では、マウスの肝臓を部分的に切除、切除してから2時間〜1週間にわたる遺伝子発現変化を解析。その結果、肝臓を部分的に切除した48時間後をピークにOrm1の発現がピークを示し、細胞周期を活性化させている遺伝子群の働きをコントロールしていたことが分かったのです。

Orm1が肝再生を制御するたんぱく質であることが分かったことで、今後は肝疾患の診断や、肝臓の病気の予後を確かめるバイオマーカー(目印)として使うことができるのではないかと期待されています。また、肝疾患の新しい治療法を見つけ出すこともできるのではないかと考えられているのです。

参考:理化学研究所 2017年10月24日報道発表資料「肝細胞の増殖を促進する肝再生制御因子Orm1-肝疾患の診断・予後予測バイオマーカー開発に期待-」
http://www.riken.jp/pr/press/2017/20171024_3/#note3

肝臓の再生機能を維持する方法

このように、肝臓の再生のメカニズムはまだまだ分からないことも多く、近年の研究で大きくそのメカニズムの真相に迫りつつあります。さらに研究が進めば、肝臓の再生能力を高めるために必要な方法や、肝臓の病気を早期発見するための手がかり(指標)なども見つけられてくるでしょう。

肝臓の健康を維持する基本は、肝臓の再生能力を高めることです。肝臓にできるだけ負担をかけないために栄養バランスの良い食生活や、適度な運動習慣、規則正しい生活習慣を心がけていきましょう。

また、肝臓の再生はまだまだ分からないことが多いほど、複雑な仕組みで再生されていきます。そのため「これだけを食べれば大丈夫」という特効薬が1つに限られているわけではありません。肝臓に良いとされるビタミンB 群や良質なたんぱく質、アミノ酸などを食生活に取り入れながら、お酒を飲みすぎない、ストレスを溜めないなど体に良い生活をすることが大切なのです。

ただし、肝臓は再生するからといって、肝細胞が分裂してダメージを受ける前の肝臓と全く同じ状態に戻るわけではありません。肝臓にそもそもダメージを与えないための生活習慣も大切と言えるでしょう。「再生するから大丈夫」と考えず、肝臓が再生する力を維持できるように肝臓を大切にする、という姿勢で日々を過ごしていきましょう。