肝臓の仕組み
を解説
肝臓が沈黙の臓器と呼ばれる理由
肝臓は沈黙の臓器と呼ばれ、早期発見が難しい臓器です。では、なぜ沈黙の臓器と呼ばれているのでしょうか。主な症状とあわせてみていきましょう。
1
肝臓は五臓六腑の中でももっとも体積がある臓器で、様々な役割を担っています。肝臓には3つの働きがあります。1.食べ物から摂取した栄養を消化・貯蓄する代謝作用。2.アルコール等の有害物質を分解して無毒化し、体外に排出する解毒作用。3.脂質の消化吸収を助けて老廃物を排出させる胆汁の生成・分泌です。また肝臓には優れた再生能力があり、炎症等で傷ついたり壊死しても、肝細胞が新しい細胞を作り出して、正常な機能を取り戻します。例えば手術で一部を切除しても、数か月後には元の大きさに戻ります。これを応用したのが生体肝移植で、ドナーの肝臓の一部を切除して移植すると、健康な肝細胞が新しい細胞を作って肝機能が回復します。
2
優秀な機能を備えている肝臓ですが、他の臓器のように感覚神経が通っていません。そのため痛みが感じにくく、肝臓にトラブルがおきても、痛みや違和感といった表立った症状がほとんどありません。とはいえ、注意深く観察していると、何らかの兆候が見られます。熱やだるさ、食欲不振等、風邪に似た症状や、悪酔いしやすくなったり、お酒が飲めなくなる等、体調に変化が現れたときは、肝機能が低下しているかもしれません。これらの症状を見過ごしたり、長引かせると、気づいた時には脂肪肝や肝硬変、肝機能障害が悪化していることになりかねません。これらのことから、肝臓が沈黙の臓器と呼ばれています。
肝機能が長期にわたって低下した状態が続くと、肝細胞が減少もしくは死滅して、線維化。肝臓が硬くなってしまいます。これを肝硬変と呼びますが、肝硬変になると肝臓は元に戻りません。肝硬変が肝疾患の終末像と言われるのは、元には戻せない状態だからです。
肝硬変の初期段階では、まだ肝臓の残された機能が働いているため、自覚症状などが現れません。さらに肝硬変が進むと、肝性脳症・手の震え・腹部や下肢のむくみ・食欲不振・倦怠感や疲れやすさなどの症状が現れます。明らかに肝硬変の症状がある状態を「非代償性肝硬変」、症状がない肝硬変を「代償性肝硬変」と呼びます。[1]
[1]参考:『肝硬変診療ガイドライン2015(改訂第2版)』日本消化器病学会[PDF]
https://www.jsge.or.jp/files/uploads/kankohen2_re.pdf
沈黙の臓器と言われる肝臓は、肝硬変であったとしても身体所見や症状だけでは肝硬変である診断できません。肝硬変の診断は、身体的所見や症状、血液検査などを組み合わせて行われます。肝硬変の身体所見としては、次のようなものがあります。[2]
ただし、こうした身体所見は、肝硬変初期では見られないことが多く、肝硬変を早期に発見するためには、身体所見はあまり参考になりません。
[2]参考:『肝硬変診療ガイドライン2015(改訂第2版)』日本消化器病学会[PDF]
https://www.jsge.or.jp/files/uploads/kankohen2_re.pdf
肝硬変がその程度進んでいるかを診断するには、エラストグラフィという画像診断が有効です。腹部超音波検査やCT、MRIなどの画像検査は、肝硬変の初期段階では診断が難しいと言われています。エラストグラフィは、簡単に言ってしまえば、超音波を使って肝臓などの組織の硬さを可視化する技術です。
慢性肝炎においては繊維化が進むと結節ができ、肝臓が硬くなっていき、肝硬変や肝癌へと進行していく。よって、肝繊維化ステージの診断は重要であるが、これまでの B モード像では肝繊維化ステージの診断が難しかった。しかし、 超音波エラストグラフィを用いることで、肝臓の硬さの値から肝繊維化ステージの診断が可能になってきている。
出典:『超音波エラストグラフィの原理』山川,バイオメカニズム学会誌,40(2),2016[PDF]
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sobim/40/2/40_73/_pdf/-char/ja
エラストグラフィの登場により、肝硬変がどの程度進んでいるかがわかる技術ですが、腹水があったり、肥満の方の場合は測定ができないというデメリットもあります。
画像検査も身体的所見や症状からも異変が察知できないとしたら、どうやって自分の肝臓が元気かどうかを確かめればいいのか…。と不安になった方もいるかもしれません。でも大丈夫。沈黙の臓器と呼ばれる肝臓の異変を早期に発見するためには、血液検査が有効です。肝硬変の進展度を予測するために、血液生化学的検査の所見をスコアリングして、判断するシステムやいろいろ考案されています。代表的な肝臓の状態をチェックするための血液検査項目には次のようなものがあります。
ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は、肝細胞に多く存在している酵素です。肝機能が低下して肝細胞が壊れると、血液中にALTが流れ出て、高い値を示します。 基準範囲は30IU/L以下。値が基準値を超えている場合には、値が高ければ高いほど肝臓が何らかの損傷を受けていることが強く疑われます。
ALTと同じく、酵素のASTは幹細胞や心臓などの臓器に多くあります。基準範囲は30IU/L以下。肝臓以外の臓器にも存在するため、AST値が高い場合には、ALTやγ-GTPの数値もチェック。ASTのみが高い場合には、肝臓ではなく心筋梗塞や筋肉疾患などが疑われます。
γ-GTPも肝臓で作られる酵素の一つです。肝硬変以外にもアルコールを飲んだ時や、脂肪肝などで高い値を示します。肝硬変のチェックはもちろんのこと、飲んだお酒の量がわかる指標でもあります。 γ-GTPは肝臓以外にも腎臓や胆汁、胆管細胞にも存在します。肝機能が低下してしまうと、γ-GTPは血液内に漏れ出し、数値が高くなってしまいます。γ-GTPとAST、ALTの3つの数値が高い場合には、肝機能の低下が強く疑われます。 基準値は、50U/L以下です。
アルブミンは肝臓で合成される血液淡白です。そのため、値が低いと肝臓障害や栄養不足などが疑われます。基準範囲は4.0g/dL以上です。
参考:日本人間ドック学会HP『検査表の見かた』2018年1月8日確認
http://www.ningen-dock.jp/public/method#blood
その他にも、肝硬変では減少がみられる血小板や、コリンエステラーゼと呼ばれるタンパク質なども指標の一つです。肝硬変で機能低下が起こると高い値を占めるアンモニアや、黄疸を示す指数である総ビリルビン、肝硬変による血液凝固因子の低下がわかるプロトンビン時間なども血液検査でチェックできます。
参考:国立国際医療研究センター 肝炎情報センターHP『肝硬変』2018年1月8日確認
http://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/010/kankouhen.html
このように、血液検査では肝臓の機能を詳しくチェックするための参考になる様々な指標を得ることができます。人間ドックなどで血液検査の結果をもらったら、ぜひチェックしてみましょう。
肝臓がかかる病気には、脂肪肝や肝硬変などいくつかあります。一番多いのが「脂肪肝」です。発症しても痛みや違和感等がほとんどなく、発見が難しい病気です。進行させないためにも、定期健診や健康診断をきちんと受けることが大切です。脂肪肝が進行すると肝炎になり、さらに悪化すると慢性肝炎を引き起こします。だるさや発熱、食欲低下や吐き気等の症状が現れます。風邪と間違えやすく、個人では判断が難しいといえるでしょう。悪化させないためにも、定期的に健康診断を受けて、体調が優れない時は、早めに病院に行って診断を受けましょう。
沈黙の臓器を守るためにできること
飽食の時代といわれる現代。現代人の3人に1人が、肝臓に何らかのトラブルを抱えているといわれます。肝臓と生活習慣には密接な関係があります。下記の生活習慣のチェックリストに沿って、自己チェックしてみましょう。
当てはまる項目が多いほど肝機能が低下している可能性があります。生活習慣を見直して肝臓に優しい生活を目指しましょう。